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- 2022年度
- LA学群宮脇教授 重い星の誕生に関する学術誌"Publications of the Astronomical Society of Japan (PASJ)"に掲載されます
LA学群宮脇教授 重い星の誕生に関する学術誌"Publications of the Astronomical Society of Japan (PASJ)"に掲載されます
本学リベラルアーツ学群の宮脇亮介教授は、アルマ望遠鏡のデータを解析することで太陽の8倍以上の質量を持つ大質量星の形成時にHII領域と呼ばれる電離ガス領域が広がっていく様子を初めて解明し、この結果が学術誌"Publications of the Astronomical Society of Japan (PASJ)"に掲載されることになりました。
本研究については2022年の3月に速報として記者発表されました。今回、その成果が正式に学術誌に掲載されることになりました。また、本研究に関連した先行研究についてAstroArtsという天文関係のサイトにおいても紹介されております。
宮脇教授による本研究の概要につきましては、以下の通りです。
研究の概要
大質量星(概ね太陽の8倍以上の質量をもつ重い星)は中小質量星に比べて進化が速く、詳しく観測できる領域が太陽付近に少ないため、その誕生のようすはよく分かっていません。その中でも,星が周りのガスを電離してできる領域(HII領域)がどのように形成するのか詳しい描像はわかりませんでした。
研究グループでは、アルマ望遠鏡のデータを解析して,大質量星の形成時にその周りでどのようにHII領域が広がっていくのかを初めてとらえることに成功しました。
大質量星の形成と電離領域
大質量星は中小質量星に比べて進化が速いため、また、詳しく観測できる領域が太陽付近に少ないため、その誕生のようすはよく分かっていません。太陽などの中小質量星は、太陽の数倍の質量をもつガス塊「分子雲コア」のなかで、周囲のガスが円盤を通して中心星へと降り積もる(降着円盤)を通して形成されます。 大質量星の場合、中小質量星における分子雲コアに相当するものは「ホットコア」と呼ばれ、その大きさは分子雲コアと同程度で数万au (注1)ですが、温度は約300K (摂氏27度、地球の表面温度程度)と暖かく、重さは太陽の1万倍 (分子雲コアの約1000倍) もあり,ホットコアから大質量星は形成したと考えられます。その後ガスが降着円盤からの降着を通して大質量星が成長しますが,十分な質量が降着すると降着が終了して,星が周りのガスを電離し,吹き飛ばしていくため,その大きさによりハイパーコンパクトHII領域,ウルトラコンパクトHII領域(注2)と成長していきます。やがて周りのガスの多くを電離することで輝線星雲(発光星雲)へと成長していきます。大質量星の形成は中小質量星の形成と唯一異なるのがこのHII領域の形成です。
ウルトラコンパクトHII領域であるW49N:A2
研究グループは、アルマ望遠鏡のアーカイブデータを解析して,星形成領域W49A(注3)の中のハイパー/ウルトラコンパクトHII領域の1つであるA2(W49N:A2)の解析を行いました。これまでの観測によると星周ガスは星によって電離されてきていますので,W49N:A2の中心部では太陽の20倍程度の質量の星,できたての大質量星が形成されていると推定されています。
ウルトラコンパクトHII領域と膨張電離リング
これまでVLA干渉計(注4)によって発見されていた波長7mmの連続波のリング構造をアルマ望遠鏡で波長1.2mmのミリ波でもとらえました(図左上)。同時に水素の再結合線H29αという電離した水素イオンが、電子と再結合する際に放出するスペクトル線をとらえました。このスペクトル線を解析するとドップラー効果により,その天体がどのような運動をしているのかがわかります(図)。W49N:A2の中心にある星の周囲では既にガスが電離されて恒星風により吹き飛ばされ始めています。再結合線H29αの描像はその様子を示しています。
このことはアルマ望遠鏡の600auの分解能の250GHz(波長1.2mm)の連続光とH29α線のデータから,太陽の20倍もある星によって電離されたハイパーコンパクトHII領域W49N:A2が半径約700auの電離リングを持ち,約50?傾いていることが確認されました。リングの幅は約1000auで、高さは数百au以下の比較的平坦なリングです。傾いたリング(見かけの楕円)は、短軸に沿った西側と東側の速度差が顕著で、13.2 km/sの速度で膨張していることが示唆されます。また、リングは2.7 km/s と、太陽の20倍の星を中心とする半径でのケプラー速度 5.2 km/s よりもかなり小さな自転を示しています。これは、リング状ガスが半径約170auのところから、そのときの比角運動量を保ったまま運ばれてきたと解釈することができます。このことから、この電離リングは、大質量星の形成時の降着円盤の名残であり、星が形成されてその放射や磁気活動が強くなり、熱や磁気流体力学的な圧力が強くなって円盤降着が逆転した可能性があります。今回のデータは、大質量星が形成の末期に降着を終了し、ハイパーコンパクトHII領域をウルトラコンパクトHII領域へと変化させるという珍しい例を明らかにしたものです。
アルマ望遠鏡によるW49N:A2の250GHz連続放射(密度の高いプラズマからの放射:弱い部分は等高線で示している)(左上図),水素の再結合線で見た速度分布(左上2番目から右下2番目まで。リングの部分のみ等高線で示している),ピーク速度の分布(右図)。
この研究結果は、日本天文学会発行の学術専門誌 Publications of the Astronomical Society of Japan (PASJ) の電子版では公開され,2月号に掲載される予定です。
研究チーム
- 宮脇 亮介(桜美林大学)
- 林 正彦(日本学術振興会ボン研究連絡センター)
- 長谷川 哲夫(国立天文台)
関連リンク
用語解説
- 注1: au (astronomical unit)は天文学で用いられる距離の単位。地球と太陽の間の平均距離にほぼ等しく、1.495978707x10の11乗 m(約1億5000万km)である。(天文学辞典から引用)
- 注2: ウルトラコンパクトHII領域 (Ultra-compact HII region) とは、誕生したての大質量星によって水素ガスが電離されている領域。ハイパーコンパクトHII領域 (Hyper-compact HII region)はそれより初期の段階。
- 注3:W49Aはわし座にある大質量星の形成領域。距離は11キロパーセク、36,000光年。銀河系内で最も明るい水蒸気メーザーを放射している。
- 注4:アメリカ国立電波天文台が運用している開口合成型の電波望遠鏡。
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