地域との共生を通して 「どう生きていくか」を 考え、語れる人に/石渡尊子教授
- 百花繚乱
- 【百家結集】22.藤田友香先生
人の心身から航空まで
あらゆる分野に気象の視点を
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藤田友香 助教
私たちの暮らしとさまざまに関わり合う、天気。気象予報士の資格を持ち、放送局や航空会社で勤務してきた藤田友香助教は、その奥深さに魅せられた一人です。「どの分野に進んでも、必ず関わってくるもの」という気象学の重要性と、現在取り組む研究について、聞きました(聞き手:桜美林大学 畑山浩昭学長)。
天気によって変わる
心身のコンディションに着目
畑山:365在线体育投注-【官网直营】@学群で「航空気象学」について教えておられる藤田先生は、日本気象学会や日本航空宇宙学会に所属していらっしゃいます。もともと、気象の分野に関心があったのですか。
藤田:もともと天気には興味が強くありました。というのも、自転車通学で学校へ一緒に通っていた友人が、雨が降り出すと機嫌が悪くなるんです(笑)。だから毎朝、天気予報を見て、「今日、あの子の機嫌が悪い日だなあ、ちょっとうまく付き合わなきゃなあ」というふうに考えるようになりました。そしてある日、地理の授業で天気図を書くことになり、その時に「面白いな」と思ったんです。
畑山:天気によって気持ちが沈んだり、ウキウキしたりすることってありますよね。それにしても、天気図を書くという授業は面白そうですね。
藤田:NHKのラジオに、漁業や農業従事者の方々へ向けた番組があるのですが、その録音を聴きながら、天気図を書くという作業でした。それから気象に興味を抱き、専門的に学びたいと考えました。入学した大学では1年生の頃から「教授に顔を覚えてもらわなきゃ」と、一番前の席に座って講義を受けていましたね。気象関係の仕事に就きたいと思っていたのですが、気象予報士の資格を持っていないと就けないと思い込み、「もう少し学びを深め、予報士の資格を取ってから就活しよう」と考え、大学院に進みました。
畑山:今までいろんな先生方にインタビューしてきましたが、こんなに明確に進路を決めて進学されてきた先生は珍しい。大学院ではいかがでしたか。
藤田:当時、ドラッグストアでアルバイトをしていて、健康や美容関連の商品を扱っていたせいか、そうした分野にも興味を抱くようになりました。そこで、気象と人間の体の結びつきについて学ぶ「生(せい)気象」という研究分野があることを知り、その分野に詳しい恩師のもとで「肌荒れ予報」を作りました。冬になると、肌も乾燥してきますよね。そうしたことを気象と関連付けながら、予想していくのです。
付加価値をつけた天気予報を届け
航空と気象の世界へ
畑山:修士課程を終えてからは、天気予報会社に入社。どのようなお仕事をされていたのですか。
藤田:気象予報士の資格を生かし、気象予報部という部署で働きました。民放ラジオやテレビ局の原稿を書き、気象キャスターに読んでもらうのです。それから、「霜注意情報」などを特定の地域に向けて出す仕事にも従事しました。たとえば、山形県向けに、農作物に影響が出ないように、「明日の朝は警戒ですよ」といった予報を、ランクを付けながら発出する業務です。大館能代空港(秋田県)の降雪予想に携わったことも。会社自体は東京都内にありましたが、全国の予報を出していましたね。農業や交通インフラだけではありません。「建設気象」では、建築関係の現場で働く方々が熱中症にならないように、または強風で事故に繋がらないようにピンポイントの予報を出しました。普通の天気予報は、気象庁が無料で出していますから、民間の気象会社はそこに付加価値をつけ、有料で提供しているんです。
畑山:それぞれの人たちの日常と気象とを、関連づけて解説していくのですね。原稿の作成だけでなく、藤田先生ご自身もNHKの番組に出演されていたそうですね。
藤田:4年間、NHK鳥取放送局で気象キャスターに従事しました。オーディションに合格し、勤務していた気象予報会社から出向というかたちで派遣されました。鳥取はかつて旅行で訪れたことがありましたし、実は鳥取出身の漫画家?水木しげるさんのことも大好きで(笑)。そして、いちどは日本海側の地域に行ってみたいとも思っていました。私は東京出身なので、日本海側の人々の雪の苦労を知らずに解説をするのも、ちょっと違うなと感じていましたので。
畑山:私にも似たような経験があります。かつて高校で英語教員をしていたのですが、教科書には英語圏での生活の描写がいっぱい出てくるんですよ。自分自身はそのような環境で暮らしたことがなくて、知ったかぶりして生徒たちに教えていたような状態で。そこで、教員を辞めて留学したという経緯があるんです。そういう意味で、情報だけで語ることに対する「罪悪感」のような感情がありましたね。
藤田:わかります。
畑山:それで鳥取に行かれたわけですが、気象的にはやはり激しいところですか。
藤田:かなり激しいです。有名な鳥取砂丘は、冬になると風が強くて、砂嵐のようになってしまいます。雪も、北陸や東北、北海道までではないにせよ、たくさん降りますし、雨も多く降るんです。少しの雨でも土砂災害が起こりやすい一面もありました。
畑山:「日本海側の気候を知る」という目標を叶えた後、今度は航空会社に転職されたそうですね。どういった経緯で?
藤田:気象キャスターが「危ないよ」と呼び掛けても、実際に判断するのは、受け手である視聴者やリスナーです。仕事自体にやりがいを感じてはいましたが、他人に最終的な判断を委ねるのでなく、自分自身で判断して決めていく仕事にも魅力を感じ始めていたんです。それで、航空会社の「ディスパッチャー(運航管理者)」という仕事に転職しようと考えました。
ディスパッチャーは、目的地までの航空機の運航にかかわる情報を分析し、最も安全で効率の良い飛行コースや高度などを決め、飛行計画を作成します。飛行ルート上の気流や雲の状況、目的地の飛行場の風向きや風速といった気象情報や、空港施設の情報、乗客や貨物の重量など、運航に関する情報を収集し分析を行うんですね。自分でフライトプランを作って、自分の判断が生かせる。まさにそういう仕事がしたいと思って転職しました。
畑山:現在の「365在线体育投注-【官网直营】@学群」との関連が生まれていくのですね。航空会社では、どのような見識を得られましたか。
藤田:気象と航空がたいへん密接であるということを、今更ながらより強く実感しました。もともと飛行機にそれほど興味があったわけではないのですが、勉強を重ねていくうちに、飛行機自体にも関心を持つようになりました。
空港周辺の気象現象を研究し
メカニズムを探る
畑山:それから本学でお勤めになるわけですが、藤田先生の授業は、学生からとても評判が良いと聞いています。授業には、どんな工夫をなさっているのですか。
藤田:そんなそんな、恐縮です。敢えて言えば、気象キャスター時代の経験が影響しているのかも知れません。視聴者やリスナーは、気象に詳しい方とは限りません。いかに気象に興味を持ってもらえるかを、つねに考えながら放送に向き合ってきました。授業も同様で、なるべく、わかりやすいところから入って、興味を持ってもらってからハイレベルな内容に繋げます。
もともと、「気象を勉強したい」と思って入学してくる学生は少なく、航空業界に就職を希望する学生がほとんどです。そんな学生たちへ向けて、「気象は今後どの分野に進んでも、必ず関わってくるものだから、知っていて損はないよ」と伝えています。
畑山:それが契機になって、気象分野に進みたいという学生も出てくるかも知れませんね。ところで先生は2021年度に「女性研究者奨励金」を受賞されていますね。最近どのような研究をなさっているのでしょうか。
藤田:地方空港の運航に影響を及ぼす気象現象について研究しています。具体的には、富士山静岡空港(静岡県)における、「低層ウインドシアー」の発生メカニズムについてです。「ウインドシアー」は、空港周辺で風速や風向が急速に変わる気象現象。着陸の直前の航空機がウインドシアーに遭遇すると、安定して着陸をすることができず、着陸をやり直します。最新型の航空機には、ウインドシアーに遭遇した場合、警報を出す装置を装備しているものもあります。
ただ、現状では、「とにかく、その時々の状況になってみないとわからない」という状態。ウインドシアーのメカニズム自体を解明して、ある程度、発生を予想できるようにしたいと思っています。そのために、実際に風が乱れて安定して着陸できなかった日の観測データを集め、シミュレーションを重ねています。そして、パイロットや運航管理の仕事に従事する人たちが、経験が足りなくても「こういう条件が揃うと危ないんだろうな」と予測できるようにしたい。静岡以外の地方空港でも、そういったデータを集められればと思っていて、学生たちにも観測のお手伝いに加わってもらえたらいいですね。
畑山:学生も関われるといいですね。彼らは皆、空港が大好きですから。最後に、何かこの場で伝えたいことは。
藤田:学長、竜巻の強さを表す用語をご存じですか。「Fスケール」といいまして、竜巻やダウンバーストなどの突風により発生した被害の状況から、風速を大まかに推定したものです。被害が大きいほどFの値が大きく、風速が大きかったことを示します。実はこの「F」は、考案者である藤田哲也博士のイニシャルから来ているんです。博士は、航空事故も引き起こすダウンバーストを発見?命名した方で、その時の研究結果が現在の航空機の安全運航に繋がっています。私は博士と親戚というわけではないんですけど、同じ苗字で親近感が湧いて、よく話のネタにしています。
畑山:そうですか。それは知らなかった。
藤田:気象の研究から航空気象という分野に飛び込んで、現在の私があります。何だか、航空気象の権威?藤田博士に呼び寄せられたような気がしているんです。私もいつか「Fスケール」のようなものを作れたらと思っています。
※この取材は2023年12月に行われたものです。
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