地域との共生を通して 「どう生きていくか」を 考え、語れる人に/石渡尊子教授
- 百花繚乱
- 【百家結集】17. 山口有次先生
教育にもデータを
リアルとバーチャルを横断する
新時代の学びへ
ビジネスマネジメント学群
学群長
山口有次 教授
長年、レジャー業界を見つめてきた山口有次教授。学群長を担うビジネスマネジメント学群では、全国でも珍しいディズニーランドについて中心的に論じる授業を展開しています。コロナ禍を経て考える教育の在り方や、積極的に推し進めている情報?デジタル関連の学びについて、思いを語ります(聞き手:桜美林大学 畑山浩昭学長)。
レジャーも教育も
限定的な体験こそが重要
畑山:2019年春にオープンした新宿キャンパスで学ぶビジネスマネジメント学群
山口先生は、2018年から学群長を務められています 。ご自身は、これまで「レジャー」をご専門に研究されてきたのですよね。
山口:はい。『レジャー白書』(公益財団法人日本生産性本部)をご存知でしょうか。全国調査をもとに、日本国内における余暇の実態を、需給双方の視点から毎年、総合的?時系列的にとりまとめた報告書です。私はその執筆を1990年から続けています。30年以上、レジャー産業界を見てきますと、いろいろと変化が起きているのがわかります。バブル直後から停滞期、そこから再び復活の兆しを見せ、「インバウンド」によって大きく飛躍したかと思ったら、コロナ禍が直撃……。このように、業界はかなり激しい変遷をたどっています。
また、「レジャー」には、スポーツやエンターテイメント、観光などの分野も含まれます。こうした分野は学生たちの関心が高いトピックです。それぞれの業界の変化を見ながら、授業を通じ、学生に理論的に伝えています。昨今、学群の卒業論文だけでなく、エンターテイメントを研究する大学院生が増えており、「レジャー」を研究対象として掘り下げることの意義や、認知度が上がってきたと実感しています。
畑山:コロナ禍を契機に、オンラインでの教育研究活動が急拡大しました。そこで話題に上るのが、「リアルで通う大学」の意義を、どう捉えていくか。「それは、エンタメだろう」って僕は思うんです。大学に来なければ体験できないものを、大学が提供しなければいけない時代に入っていく。たとえば、家庭にはない、大きな機材を用いる授業や、グループでリアルに取り組む必要のある研究、訪れると楽しいと思えるような空間——。そんなエンタメ的な要素が重要だと考えるのですが、山口先生はご専門の立場から、どう思いますか。
山口:強く賛同します。レジャー業界もまったく同様で、バーチャルに行き過ぎると、どこでも同じことが提供できてしまう。「その場所」「その瞬間」でしか味わえない、極めて限定的な時間が提供できてこそ、生き残れると思います。オンライン授業や、オンデマンドの学習も同様です。知識だけならウェブ上にいくらでもありますから。今後は、授業内でライブ性を持たせて、学長がおっしゃったようなエンターテイメント性を含めた学びをどう展開していけるのかという、高度で革新的なFD(=「ファカルティ?ディベロップメント」、大学教員の教育能力を高めるための実践的方法)が必要だと実感します。
あらゆるビジネスに応用できる
テーマパークづくりのノウハウ
畑山:なるほど、心強いかぎりです。エンターテイメントといえば、山口先生は長年、「ディズニーランド」を研究対象として活動されていますね。
山口:遊園地やテーマパークは、人の動きや行動パターンが、ひじょうにはっきりしていて、研究対象としてわかりやすい。そのなかで経営的、空間的、人間工学的、あるいは心理的な側面で重要なノウハウが、数多く網羅的に盛り込まれている、極めて優良なケースがディズニーランドなんです。あらゆるビジネスの場で応用できますし、ひいては「生きていくための知恵」までも得られます。
畑山:とっても興味深いです。たとえば、どのようなノウハウがあるのでしょうか。少しだけ教えていただけませんか。
山口:たとえば、園内と園外を意識的に分けていますよね。園の周辺に土手や植栽、建物などを配置することで、中を見せないように、空間を区切っています。そうすることで、園内の人たちの心理的高揚を高める効果をつくり出しているんです。それから、バックヤードを見せないことや、入場者の回遊性、アトラクションとショッピングブースとの位置関係といった点に工夫を凝らすなど、さまざまなところに心理学的要素を含ませています。空間の作り方については、他の業種でもノウハウを生かせるのではないでしょうか。私は「テーマパーク論」という授業を受け持っていますが、そんな内容も含んでいます。
畑山:ビジネスマネジメント学群の先生方は、アカデミック出身者と、実業界出身者が半々ぐらいの割合でいらっしゃいます。知恵や経験、リソースが豊富にありますから、うまく回れば、これはとても大きな強みになると思います。
山口:おっしゃる通りです。広報、マーケティング、戦略担当、法律、会計……。まるでひとつの会社みたいに、いろんな専門家がおります。さらに、学群が新宿キャンパスに移ってからは、格段に企業と連携しやすくなりました。キャンパス内での実習?研修など、さまざまな教育の場を設けられます。
データサイエンスを学び
ARアプリや動画も制作
畑山:たしかに、新宿キャンパスは開かれた空間で、連携のハードルが低くなりましたよね。アクセスもひじょうに良い。その中で山口先生は、これから学群の舵をどう取っていきたいですか。
山口:学生たちに人気の高いエアラインのサービス部門、観光?ホスピタリティ?エンターテイメント、流通?マーケティング系の職業は、コロナ禍を経た現状でもニーズは衰えていません。これらに対応する多様なゼミを用意して、志望業界?業種を詳しく知ることができるよう、態勢を整えています。そこにまずはフォーカスしながらも、骨太で、基礎のしっかりとした、どこに行っても通用する学生を育てていくことに注力したいと考えています。
そのためにもいまは、DX(=「デジタル?トランスフォーメーション」、情報技術の浸透により、人々の生活を変革させる試み)が、学びにおいても欠かせない要素です。情報リテラシーと、データサイエンス分野に取り組む科目を充実させていきたいと考えています。
既に進行している例として、新宿キャンパスに近い「新大久保商店街」の活性化事業があります。定点カメラを設置し、学生たちがお客さんの数や属性の最新データを取得しています。そのなかでたとえば、「雨が降ると、客足が減る」など、天気とお客さんの数の関連が分かり、それが売り上げとどう関係しているかも見えてきます。データの蓄積によって、かなり高い確率で来街者数や来客数を予測できるようになりました。
畑山:データの収集という点では、桜美林大学は学修量を「見える化」するオリジナルアプリ「OBICON」を活用しています。教室などに設置されたビーコンにより、アプリをインストールしたスマートフォンを検知し、その施設を利用する学生の状況などを把握するしくみです。授業への出席情報を登録したり、記録を参照したりすることができます。
山口:我々は、学生たちが授業にどのぐらい出席したかというだけでなく、キャンパス内で滞在した時間や場所、ネットワークにどのぐらいアクセスしたかといったことにも注目しています。そういったデータから学修ポートフォリオというものを整備して、教育に生かそうとしております。
そして授業では、AR(=「拡張現実」、現実世界の情報にバーチャルな視覚情報を加えて現実環境を拡張すること)を用いた学びにも取り組んでいます。冒頭で、レジャーも教育もバーチャルに行き過ぎてはいけないという話をしましたが、ARはリアルとバーチャルが関連しあう技術として注目しています。具体的には、ARの画像をリアルの空間に重ねると、その空間がどう活性化するかということを調査します。学生たちが開発したARアプリを一般の方々に使っていただき、そのデータを活用して、またアプリを更新するという流れです。
また、新宿キャンパスを紹介する動画の制作を、学生たちが授業を通じて学び、学内外で情報発信しています。ビジネスマネジメント学群の学生がARや動画に携わるというのは、これまでなかなか想像できなかったことです。しかし、画像のデザインや、動画撮影?編集、配信などのスキルは、いまのビジネスパーソンにとっても、もはやスタンダードになっています。
畑山:ひじょうに良いですね。アートを学ぶ芸術文化学群とコラボしても良いのではないでしょうか。大学全体で一緒に新しいものをつくり出していけると、面白いですね。
※この取材は2023年1月に行われたものです。
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